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おばさんの野生


 雪で白くなった朝、地下鉄に乗った。

 電車が遅れているというアナウンスがあり、私はプラットホームにあるベンチに腰を下ろした。
 隣に70歳くらいかと思われるマスクをしたおばさんが座っていた。
 私が座ったかどうかというタイミングでおばさんが話しかけてきた。
 口を覆ったマスクを下にずらしながら、
 「その上着(私が来ていたもの)いいわねえ。わたしのは去年まで使ってたのがチャックが壊れちゃって、それでこれに買い替えたの。去年までのはけっこういいやつでねえ、ここ(袖口の所)に丸が付いてるやつ。」
 この上着の話を三度ほど繰り返した後、
 「わたし今から中川区まで働きに行くの。緑区に住んでるから遠いじゃない?それにお金もかかるしねえ。もっと安くなればいいのに。それに眼科と皮膚科にも行かないといけなくて、またお金かかるでしょう。もうやだよねえ。もっと安くならんかねえ。」
 マスクを取ったおばさんの口の隅に唾がたまってきた。それをグイと拭った手で、私の腕をたたきながら話し続けるおばさん。
 「わたしもまだ年金貰うまで4年あるでしょう、今61だからさあ。」
 ・・・まだ61だったか。
 「もうわたしなんてバカだからさあ。なんにもできん。奥さん(私のこと)みたいならいいわねえ。」
 大概うすらばかに見られる私の何を見てそう言うのか。しかも私が何者かまったく知らないのに。
 その後おばさんはこう言った。
 「奥さんとか先生やってる人なら、いいわよねえ」
 自分が教職から離れてもう数十年にはなるが、私はちょっとびっくりした。
 このようなおばさんの野生の感とでもいうのだろうか、は侮れないものがある。
 「ほんとバカはだめ。わたしみたいのはだめ」
 と繰り返すので、「ご健康そうだからいいじゃないですか?頭の出来はあんまり関係ないのでは?」と言うと、
 「ああ、ほんとそうだよねえ。頭良くたって人殺すひといるもんねえ。ねえ、頭良い人で人殺すひとねえ」
 
 そしてついと立ち上がったおばさんは、私の腕をたたきながら
 「どうも有難うございますねえ奥さん。わたしの電車が来るから行かないと」
 と言って流れる人波に乗りながら、プラットホームのさらに奥の方へと消えて行った。




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isoginchaku

Author:isoginchaku
名古屋市緑区在住。たった一人の弁当屋。
只今休業中。

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