今頃


 今朝、蝉が一斉に孵ったようだ。

 ラジオ体操を終えごろんと一休みすると、外でわんわんと蝉の声がするのに気づいた。7年だかの真っ暗な土の中の世界から光の世界へ。しかも7日間だけの。虫に感情はないとしても、あんなにわんわん鳴いちゃうのに納得いく気持ちだ。


 わんわんを聞きつつ、読みかけの本を開く。
 サリンジャーの『The Catcher in the Rye』を、この年になって初めて手取り読んでいる。
 『ライ麦畑でつかまえて』というタイトルで紛れもなく有名な作品であり昔から知ってはいたが、手が伸びたことが無かった。
 16歳の男の子が主人公の青春小説を、その倍以上も歳取った今読んでどんなものかと思ったが、これがけっこう読める。
 村上春樹の訳が合うのかもしれない。
 今三分の一過ぎたところ。まあどうでもいいというようなところもあるのだが、なんとなく読んでいってしまう。そしてやっぱり、十代の頃に一度読んでみたらよかったかなと思う。


 「ペンシーでは土曜日の夕食はいつも同じ献立で、いちおう「ご馳走」ということになっている。」という文章が第5章の冒頭にあった。
 「山田温泉では土曜日の昼食はいつも同じ献立で、カレーということになっていた」と置き換えて、私は2年前の冬にしばし思いを馳せる。
 土曜日のまかないは、業務用カレールウを使った砂糖入りのカレーだった。
 青森出身のまかないおばちゃん、当時74歳はまだ元気だろうか。
 「砂糖なんか入れるなよ」と年下(65歳)のおばちゃんに言われていた。砂糖入りだからかどうか、大半の従業員にはそのカレーは不評で、良く食べているのは私のように短期だけ働きに来た20代の若者たち。翌日どさっと捨てられていたのを見た。
 目の不自由な按摩さんのおじいさんもどうしていることか。按摩を頼むお客さんは今どき滅多にいなくて、おじいさんは食事と部屋を与えられている人みたいになっていた。
 「あいつの按摩なんかただスルスルとなでとるだけで全然きかんわ!」と青森おばちゃんに言われていたが、おばちゃんはおじいさんの面倒をよく見てもいた。


 ふらふらと根無し草で生きてきて、身に付いたものも成長したことも何も無い自分だが、ちょこっとしたこういう思い出だけは幾つかあってまだ想い出せる。




 

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isoginchaku

Author:isoginchaku
名古屋市緑区在住。たった一人の弁当屋。
只今休業中。

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